ミノキシジルには、頭皮に塗る「外用薬」の他に、体の中から作用する「内服薬(ミノキシジルタブレット、通称ミノタブ)」が存在します。外用薬よりも高い発毛効果が期待できるとして、一部のAGAクリニックなどで処方されていますが、女性がこのミノキシジルタブレットを服用することには、大きなリスクが伴います。結論から言うと、日本皮膚科学会のガイドラインでは、女性に対するミノキシジル内服薬の使用は「推奨しない」と明確に述べられています。その理由は、その有効性に対する十分な科学的根拠が確立されていない一方で、深刻な副作用のリスクが懸念されるためです。ミノキシジルタブレットは、もともと重度の高血圧症の治療薬として開発された医薬品であり、強力な血管拡張作用を持っています。これを薄毛治療の目的で服用すると、全身の血管が拡張し、様々な副作用を引き起こす可能性があります。特に女性が注意すべき副作用として、まず「多毛症」が挙げられます。内服薬は血流に乗って全身に行き渡るため、外用薬よりもはるかに高い確率で、そしてより顕著に、顔や腕、足など全身の毛が濃くなる傾向があります。次に、心臓や血管系への影響です。動悸、息切れ、めまい、立ちくらみ、手足や顔のむくみといった症状が現れることがあります。もともと血圧が低い女性の場合、さらに血圧が下がることで、失神などのリスクも考えられます。また、重篤な副作用として、心臓の周りに水が溜まる「心タンポナーデ」や、肺に水が溜まる「肺水腫」なども報告されており、これらは命に関わる危険な状態です。日本では、ミノキシジルタブレットは薄毛治療薬として国の承認を得ていません。そのため、クリニックで処方される場合も、医師がそのリスクを十分に説明した上で、自己責任のもとで使用される「適応外処方」となります。高い効果を謳う言葉に惑わされず、その裏にある深刻なリスクを正しく理解することが重要です。女性の薄毛治療の第一選択は、あくまで安全性が比較的確立されている「ミノキシジル外用薬」です。安易に内服薬に手を出すのではなく、まずはガイドラインで推奨されている治療法から始めるべきでしょう。