「AGA遺伝子検査は意味がない」という意見の背景には、遺伝子情報だけではAGAの全体像を把握できないという現実があります。むしろ、AGAの診断と治療においては、専門医による直接的な診察と判断が何よりも重要となります。医師は、遺伝子検査の結果を見るだけでなく、患者さんの頭皮や毛髪の状態をマイクロスコープなどで詳細に観察し、問診を通じて生活習慣や家族歴、自覚症状などを丁寧に聞き取ります。これらの情報を総合的に分析することで、AGAであるかどうか、進行度はどの程度か、そしてどのような治療法が適切かを判断します。AGAの診断は、特徴的な脱毛パターンや毛髪の質の変化など、視診によって得られる情報が非常に重要です。また、他の脱毛症(例えば円形脱毛症や脂漏性皮膚炎に伴う脱毛など)との鑑別も、専門医でなければ難しい場合があります。遺伝子検査では、これらの臨床的な情報は得られません。さらに、AGA治療薬の効果や副作用の現れ方には個人差が大きく、治療の経過を見ながら薬剤の種類や量を調整していく必要があります。これは、医師が患者さんの状態を定期的に診察し、きめ細かく対応することで初めて可能になります。遺伝子検査の結果が、特定の治療薬が「効きやすい」あるいは「効きにくい」といった傾向を示唆することはあっても、それが全ての個人に当てはまるわけではありませんし、実際の治療効果を保証するものでもありません。結局のところ、AGAは個々人の状態に合わせてテーラーメイドの治療が求められる疾患であり、そのためには医師による継続的な診察と判断が不可欠なのです。遺伝子検査は、あくまで補助的な情報の一つとして捉え、診断や治療方針の決定は、経験豊富な専門医の判断に委ねることが、最も確実で効果的なAGA対策と言えるでしょう。
9月11